IRIN のご紹介 -- レジリエンス(強靭さ)に関する記事とあわせて

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また、今回は最近のIRIN記事の中から、レジリエンス(日本語では強靭性と訳されることが多い)に関するものを和訳してひとつご紹介いたします。日本でも東日本大震災の経験に照らして「国土強靭化」をめぐる議論が高まりを見せていますが、特に世界の現場で活動する国連援助機関の立場からこの言葉を捉えなおしてみたとき、日本での復興や海外での支援活動を考える上で参考となるような、新たなものの見方が生まれてくるのではないでしょうか。

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-レジリエンス(強靭さ)とは?-
ジャスプリート・キンドラ

【2013年3月4日:ヨハネスブルグ発】援助業界に身を置く者であれば誰でも最近は「レジリエンス」という流行り言葉を避けては通ることはできない。しかし現実としてこの「レジリエンス」という言葉は何を意味し、現地での活動を図る上でどのように役に立つのだろうか。
 
実際、ある国連開発計画(UNDP)の報告書草案は、この言葉に標準的な定義が存在しないと指摘している。そこでUNDPは国連人道問題調整事務所(OCHA)とともに、この「レジリエンス」という課題について、開発援助や人道支援アクターがよりよく協働するための方策を探ることとなった。
 
国連国際防災戦略事務局(UNISDR)は「レジリエンス」を「危険に晒されたシステムや共同体及び社会全体が、その影響を受けながらも抵抗し、あるいはそれをうまく吸収・管理しながら、早急かつ効果的に回復する能力」と定義付けている。一方、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「体(たい)を変えることなく、システムとして受け止めることができる変化の許容量」と表現している。英国国際開発省(DFID)は、「ショックやストレスに直面しつつも、長期的な展望を見失うことなく生活水準を維持もしくは変容させることにより、家庭やコミュニティ、そして国としてこうした変化をマネージしていくための能力」と定義している。
 
しかしUNDPは、これらの定義は他のものも含めてどれも、ショックに対する予防や事前の備えよりも事後の対応に焦点をあてた狭義のものであり、その目的も被災したコミュニティを元通りの状態に戻すことでしかないと指摘している。そのためUNDPは、「人々、共同体、そして国々がさまざまなショックを予見し、マネージし、そこから回復する能力を強化するための変容プロセス」と定義付けた。つまり"build back better(被災前よりも良い社会を目指す復興)"である。
 
UNDPでレジリエンスを担当しているサミュエル・ドウは、「レジリエンスは結果というよりプロセス」だと言う。そして援助機関が「レジリエンスを普及させる」計画をしていると聞くと、正直戸惑いをおぼえると付け加える。レジリエンスを構成要素に抱えるプログラムの対象となった共同体はどこも、自尊心やジェンダーに対する意識、自己組織能力が高まり、効果的な早期警告システムの強化などの自立力が向上すると彼は言う。
 
現場レベルでは、脆弱な状況におかれている家族や共同体の「レジリエンス」を改善するための活動-例えば災害リスク低減、生計支援、社会的保護、基礎的サービスの提供など-は必ずしも新しいものではないと言うのはOCHAのサラ・マスクロフト。「新しいのはニーズ調査や事業計画作りや支援の実施方法。特に人道支援と開発援助アクターがともに集まり、ニーズ調査や計画作りのツールをすり合わせることが、こうしたアプローチの中心だ」と指摘している。
 

開発か人道か?

「レジリエンス」という概念は、人々のショックに対する脆弱性という課題に取り組む上で、緊急人道支援と長期の開発援助の潜在的な橋渡しとなりうる。しかし、危機の際に即座の救援を行う人道支援機関と、より長期の開発アクターのどちらが、こうしたことにより責任を負うのかという疑問にまつわる混乱はまだ残されたままだ。
 
英国シンクタンク・海外開発研究所(ODI)のサイモン・リヴァインは「ワークショップなどでの議論をみるに、人道支援機関からの方がレジリエンスに対する関心が高く、「building back better」の発想に見られるように、危機が何度も再発するのを防ぐべく、人道支援活動の中に「レジリエンス」を何らかのかたちで組み込むべきものと捉える傾向がある。しかし、これでは間違った考えが強調されてしまっていると私は強く思う。人々が危機に瀕するのを防ぐことこそが開発援助の仕事であるということを実現すべく、本来は「レジリアンス」が謳われなければならない。」
 
しかし人道機関側はすでに短期的な緊急支援の範囲を超えた仕事をしていると主張する。インド洋でのサイクロンのように繰り返す危機、アフリカの角やサヘル地域での旱魃、南部アフリカの洪水等、果たしてこうした構造的な問題に対し、人道援助として一時的に「絆創膏を貼る」役割のみを担っているのかどうか、多くの機関が内省している。
 
1970年代の脆弱性に関する研究に触発され、人道支援機関職員はより長期の問題解決に一層注目するようになった。これが災害リスク低減(DRR)アプローチに繋がったわけである。初めて国際的に受け入れられた災害リスク低減に関する枠組みである「兵庫行動枠組み」は2005年に採択された。国連事務総長特別代表(防災)のマルガレータ・ワルストロームは、この兵庫行動枠組みを「レジリエンスの中身が何なのかをより詳細なものとする初めての包括的試み」であると述べている。
 
国連児童基金(UNICEF)でアフリカの角における事業を総括するドロシー・クラウスは、今日人道支援は旱魃の際単に井戸を掘り給水するという以上のものになっていると説明している。そうする間にも援助機関は家畜のためのニーズや環境への影響等を考慮し、さらに対象世帯には支援を受ける理由を理解してもらいながら事業に主体的に取り組んでもらえるよう努めなければならない。こうしたことは本来開発事業が考慮に入れることである。
 
同じくUNICEFのサヘル地域における災害リスク低減専門家、ヤコブ・ヴェルネルマンは開発援助と人道支援は異なるタイプの脆弱性を減らすことを目的としていると話す。開発援助は特にミレニアム開発目標を達成するため、より広義の脆弱性を低減させることに焦点をおく。他方、人道支援は現地における共同体や個人レベルでの危機に対する脆弱性を低減させることに焦点をおくというのだ。
 

ぼやける線引き

OCHAのマスクロフトは、人道支援機関が「レジリエンス」という考え方を受け入れるということは、緊急援助から開発へという伝統的なパラダイムから、短期・中期・長期のニーズに同時に対応できるような、より統合的なアプローチへのシフトをも必然的に受け入れることになると指摘している。
 
これは国連農業食糧機関(FAO)のソマリア代表、ルカ・アリノヴィが求めていることと全く同じだ。援助を「緊急支援」「早期復興」あるいは「開発」と区分けすることは、援助業界用語で言われるところの「長引く危機(Protracted Crisis)」に直面するソマリアのような国で支援を行う上でほとんど助けにならない。
 
しかし、援助がどのように区分けされるかは、実際どう資金が提供されるかに影響を与える。つまりある資金は即座の支援活動にのみ提供されるが、さもなくば他の資金は年度単位でしか提供されないといった具合だ。
 
「危機から立ち上がろうとする国を本当に助けたければ、われわれはこうした努力に対して長期のコミットメントをする必要がある」と、アリノヴィは実にソマリアが飢餓を迎える前の2011年にIRINに対して語っていた。そしてそのソマリアの飢餓については、そもそも気候上のショックに対してソマリアの「レジリアンス」を高めるための長期の事業を対象とした十分な資金が手当てされなかったと多くの専門家が非難している。彼は電子メールによるメッセージの中で人道と開発の二つの流れを「レジリアンス」という成果に焦点をあわせ集中させる必要があると記している。
 
世界食糧計画のチーフエコノミスト、リン・ブラウンも問題は「そもそも緊急時の仕事自体を、切れ目なく開発に移行させようとする方法にある」としている。他方、人道支援は開発アクターに有用な分析を提供することで「リジリエンス」を構築する一助になれると、ヤコブ・ライナー国連大学(在ボン)の環境と人間の安全保障研究所長は言っている。
 
しかし、開発アクターは人道支援側の意見にそもそも耳を傾けるだろうか?ODIのリヴァインは、それには特に世界銀行が実施しているような開発援助に関わる大ドナーがその考え方を大きく変えていく必要があると主張する。また実際、欧州共同体(EU)のようなドナーは開発援助と人道支援の双方に共通する計画プロセスを求めてきたと指摘している。そして各援助機関、団体、ドナーがそれぞれ「レジリエンス」をめぐる枠組み作りを模索する中、こうした共通の計画プロセスを後押しすることは、各者共通の理解に至る助けになるとUNDPのドウは述べている。
 

早期復興(Early Recovery)を覚えていますか?

以前から、人道支援と開発援助の橋渡しをする試みはいくつかあった。この中に、人道支援事業が持続可能な開発への機会を醸成するの助ける「早期復興」アプローチも含まれている。しかしOCHAのマスクロフトは「様々な努力にもかかわらず、早期復興は人道アクションの一部というよりはこれと一線を画すような形で受け止められているのが一般的となってしまっている」と述べている。
 
UNDPのドウは「レジリアンス」をめぐる議論がより早期復興をより強調する方向に進むことを望んでいる。しかし「レジリアンス」というアプローチを取ることが、直線的な「緊急援助-復興-開発」というルートを避けるということを意味するのかと問われると、それは今後の議論によるだろうとも述べている。
 
OCHAのマスクロフトは「レジリエンスというアプローチを実施していくうえでの最大のチャレンジは、組織毎で固められたそれぞれの「主権」を克服することであり、そのため各援助機関がより柔軟になり、これまでとは異なる適応、思考、行動が出来るかどうかにかかっていると指摘している。
 

目に見えないものを測る

こうした中、ほとんどのドナーは提供した資金が実際に人々をより「レジリエント」にしているのかどうかが知りたいのだ。UNICEFのソマリア事務所で働くユージーン・リーディーは予防接種率や栄養指標、水へのアクセスなど統計的手法を用いてれば、「レジリアンス」の画を描くことに寄与できるとしている。しかし信頼や適用能力、エンパワメントなど、量では測れない「レジリアンス」の指標もある。
 
UNICEFは2011年の飢餓で影響を受けたソマリア中南部の地域住民と、共同体の観点からみて「レジリエンス」が何を意味するのか話し合いを続けている。量的および質的データを組み合わせることで、「レジリアンス」のための事業効果が測れないかと考えているのだ。ODIのリヴァインは「手法を組み合わせるというのは確かに今後のあり方だ。でも同意できないのは、それが「レジリエンス」という、ある意味とても希薄なものを測るための構成要素だ。例えばある子供がいたとして、その子供がある感染症に対してどの程度「レジリアント」かということは単純に計算できるものではない(例えば予防注射は助けになるかもしれないが、それもどこに住み、どのような健康に対する脅威があるかによる)。ましてやその子供たちのさらに息子が次の10年後の労働市場の悪化に対してどの程度「レジリアント」かを測ることも難しいだろう。」