国内避難民 (Internally Displaced Persons: IDPs) とは、内戦や暴力行為、深刻な人権侵害や、自然もしくは人為的災害などによって家を追われ、自国内での避難生活を余儀なくされている人々を指します。
2019年には新たに紛争で850万人、自然災害で2,490万人、のべ3,340万人が国内避難民となり、全世界で5,080万人という記録的な数に達しました。
多くの人々は、キャンプや都市部の貧困地区などで、長期にわたって不安定な避難生活を送らざるを得ません。永住できる家も生計を立てるすべもないため、しばしば持続的な解決への展望さえ持てずにいます。
「国内避難民に関する指導原則」は、国内避難民のニーズに対応するための基礎的な枠組です。既存の国際人権法や人道法で求められている一般的な人権保証に国内避難民も暗に含まれていますが、この指導原則ではそうしたことをしっかりと明示しています。2005年9月には、ニューヨークの世界サミットに参集した各国の代表らも、この指導原則を「国内避難民保護に関する重要な国際的枠組」と認めています(国連総会決議第60/L.1, 132)。 また2018年には同原則が採択されて20周年を迎えました。
解決策のないまま長期の避難を強いられる国内避難民に対し、短期の緊急援助に重点を置いた現在のアプローチのみでは、十分でも持続的でもありません。国内避難民の生計が外部からの支援に依存してしまうような支援者中心の考え方から、国内避難民自らが解決策を見出せるよう支援するアプローチに転換する必要があります。つまり、ただ人道ニーズを満たすだけでなく、国内避難民の尊厳を守り、生計作りや自立を促し、受け入れコミュニティの開発にも貢献するようなアプローチが必要となっているのです。
実務面では、クラスターシステムの中で、国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR)が「保護クラスター」のリード機関として、紛争で家を追われた国内避難民の保護努力を主導します。そして国連常駐・人道調整官が、国内避難民対応を含む包括的な人道支援を統括します。UNHCRや国連開発計画 (UNDP)、国際移住機関 (IOM)、さらには各NGOも、それぞれ状況に応じて国内避難民を支援・保護しています。また国内避難モニタリングセンター (IDMC)と、国内避難民共同プロファイリングサービス (JIPS) が、共に国内避難の状況に関する情報と専門知識を有しています。国内避難民に関する国連人権理事会の特別報告者もまた、国連全体にわたり国内避難民が持つ権利を周知させ、政府や主要な関係者に国内避難民の人権保護を訴える役割を担っています。
2016年5月に開催された世界人道サミットで国連事務総長が提唱した「人道への課題」は、国内避難を開発の課題と位置付け、解決に向けて長期的な視野をもって取り組む姿勢を示しました。
「持続可能な開発ための2030アジェンダ」は、「誰も置き去りにしない」ことを謳っており、開発の枠組の中で強制移住(強制的に家を追われること)を取り扱っています。また、国内避難民を「特に留意すべき脆弱層」とし、アジェンダが実現すれば国内避難問題の持続的な解決に向けた重要な機会となります。
OCHAは国連安全保障理事会やUNHCR、UNDP、国内避難民に関する国連人権理事会の特別報告者や、保護活動に携わるその他のIASC所属機関、国連事務局内の他の関連部局と協力して、国内避難民の保護と支援を推進しています。
2017年、OCHAは長期にわたる国内避難に関する研究を発表しました。この「行き詰まりを打破する:長期的な国内避難を協働で削減(Breaking the Impasse: Reducing Protracted Internal Displacement as a Collective Outcome)」と題した報告書は、長期化した国内避難においては自給自足を早期に達成することや、人道、開発と政治の連携強化を推奨しています。また、長期にわたる国内避難に対応し、避難民を新たに生み出すような状況を長期化させたないための協働を提案しています。2019年、OCHAは報告書「長期的な国内避難の削減:人道と開発の連携の成功例(Reducing protracted internal displacement: A snapshot of successful humanitarian-development initiatives)」を発表しました。国内避難民の生活の改善に成功した人道兼開発プロジェクトを紹介しています。
関連リンク |
関連文書/ガイダンス等 |
国内避難民に関する指導原則(外務省) |